行政書士への依頼におけるカスタマーハラスメントとは X凍結解除の場面で考える
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、事業主にはカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が義務付けられました。対策の具体的な中身は、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に定められています。
カスハラというと店舗や窓口での出来事を思い浮かべがちですが、行政書士へのご依頼でも起こり得ます。凍結されたアカウントを早く取り戻したいという切実な事情があるからこそ、気持ちが言葉や行動に強く出てしまうこともあるでしょう。この記事では、指針の考え方をもとに、行政書士へのご依頼で何がカスハラにあたり、何がそうでないのかを、X凍結解除の場面の具体例とあわせてご説明します。
この記事で確認すること
1 カスタマーハラスメントとは何か
2 正当な申入れとの違い
3 行政書士へのご依頼で問題になる言動
4 X凍結解除の場面での具体例
5 弊所の対応
1 カスタマーハラスメントとは何か
指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の三つの要素をすべて満たすものと定めています。
| 要素 | 行政書士へのご依頼に置き換えると |
|---|---|
| ① 顧客等の言動であること | ご依頼者さまのほか、ご相談だけの方、今後ご依頼を検討している方も含まれます |
| ② 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること | 要求の内容が契約からみて相当でない、または伝え方・やり方が相当でないこと |
| ③ 就業環境が害されること | その言動によって、業務を続けるうえで看過できない程度の支障が生じること |
対面だけでなく、電話やメール、LINE、SNSなどインターネット上の言動も含まれます。弊所へのご相談の多くはオンラインで行われるため、この点は特に関係があります。
また、強い苦痛を与える言動であれば、一度きりでも該当し得るとされています。反対に、一つひとつは軽く見える言動でも、頻度や継続性によっては該当することがあります。
2 正当な申入れとの違い
指針は、顧客等からの苦情がすべてカスハラにあたるわけではないことを明記しています。客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、カスハラにはあたりません。
たとえば、進捗の報告が遅いことへのご指摘、作成した書面の内容についてのご質問や修正のご依頼、ご説明と異なる対応があったときのお申し出は、いずれも正当な申入れです。強い口調になってしまうことがあっても、それだけで直ちにカスハラになるわけではありません。
指針は、事業者側の不適切な対応がご依頼者さまの言動の原因や背景になっている場合もあることに留意するよう求めています。弊所の説明不足や連絡の遅れがあれば、まずそれを改めます。カスハラかどうかを考える前に、弊所の側に原因がないかを確かめることを基本にしています。
3 行政書士へのご依頼で問題になる言動
指針は、社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例を、「言動の内容」が問題になるものと「手段や態様」が問題になるものに分けて示しています。どちらか一方だけでも該当し得るとされています。行政書士へのご依頼に当てはめると、次のようになります。
言動の内容が問題になるもの
| 指針の類型 | ご依頼の場面での例 |
|---|---|
| 要求に理由がない、サービスと関係のない要求 | 担当者の私的な連絡先や個人的な事情を聞き出そうとする |
| 契約で想定したサービスを著しく超える要求 | 契約にない別アカウントの対応や、業務範囲外の交渉・訴訟手続を無償で求める |
| 対応が著しく困難な、または不可能な要求 | プラットフォームの審査結果を保証するよう求める、報酬の大幅な減額を求める |
| 不当な損害賠償の要求 | 凍結期間中の逸失利益など、業務内容と関係のない賠償を求める |
手段や態様が問題になるもの
| 指針の類型 | ご依頼の場面での例 |
|---|---|
| 精神的な攻撃(脅迫、中傷、侮辱、暴言など) | 「SNSに悪評を書く」とほのめかして要求を通そうとする、人格を否定する言葉を投げかける |
| 威圧的な言動 | 電話やオンライン面談で大声を上げる、反社会的な勢力との関係をほのめかす |
| 継続的、執拗な言動 | 回答済みの同じ質問を繰り返す、同じ内容のメッセージを短時間に大量に送る |
| 拘束的な言動 | 電話を切らせず、長時間にわたって対応を続けさせる |
これらはあくまで典型例で、個別の事情によって判断は変わります。言動の目的やそれまでの経緯、頻度や継続性などを総合的にみて判断します。
4 X凍結解除の場面での具体例
ここでは、Xの凍結解除のご依頼で起こりやすい場面を三つ取り上げます。いずれも、ご相談の傾向をもとに再構成した例です。それぞれ、正当な申入れにとどまる場合との違いもあわせてご説明します。
事例1 解除の保証と、結果に応じた賠償を求められる
申立書を提出した後、Xから「決定は撤回されません」という返信が届きました。ご依頼者さまから「必ず解除させると言ったはずだ。解除されないなら報酬は全額返し、凍結中に失った売上も払え」と求められたケースです。
凍結を解除するかどうかは、X社が審査して決めます。行政書士が結果をお約束することはできず、弊所もご契約の際にその旨をご説明しています。説明と異なる保証を前提にした返金の要求や、凍結そのものによる売上の損失を賠償するよう求めることは、「対応が不可能な要求」や「不当な損害賠償要求」にあたり得ます。
一方で、契約に定めた返金の条件にあてはまるかを確認したい、次の申立てで何を変えるのか説明してほしい、というお申し出は正当な申入れです。弊所の説明が不十分だったと感じられる場合も、遠慮なくお伝えください。
事例2 返信を待つ間に、深夜の連絡や長時間の電話が続く
異議申立ての後、Xからの返信が数週間届かず、ご依頼者さまの不安が募っていました。深夜から早朝にかけて「まだか」「何をしているのか」というメッセージが数十件届き、日中は電話で、すでにお答えした質問が1時間以上繰り返されたケースです。
返信が来ない期間は、ご依頼者さまにとって最もつらい時期です。そのお気持ちは十分に理解しています。ただ、同じ内容のメッセージを執拗に送ることや、長時間の電話で対応を続けさせることは、「継続的、執拗な言動」や「拘束的な言動」にあたり得ます。この状態が続くと、他のご依頼者さまの書面作成にも支障が出てしまいます。
進捗の確認や、報告の頻度を決めてほしいというご要望は正当な申入れです。弊所では、返信待ちの期間にどのくらいの間隔でご報告するかを、あらかじめご依頼者さまと決めるようにしています。
事例3 業務範囲外の対応を迫られ、断ると悪評の投稿をほのめかされる
ご依頼者さまから「X社の担当者に直接交渉してほしい」「凍結の原因になった通報をした相手を特定してほしい」と求められました。弊所の業務範囲ではないことをご説明すると、「対応しないなら、この事務所は役に立たないとXに書き込む」と告げられたケースです。
相手方との交渉の代理や、発信者を特定するための手続は弁護士の業務で、弊所はお引き受けできません。これを繰り返し求めることは「契約で想定したサービスを著しく超える要求」にあたり得ます。さらに、SNSへの悪評の投稿をほのめかして要求を通そうとすることは、指針が「精神的な攻撃」の例として明記している言動です。
交渉や発信者の特定が必要なので弁護士を紹介してほしい、というご相談は正当な申入れです。また、弊所のサービスについて、事実に基づいたご感想やご意見を投稿されることを妨げるものではありません。
5 弊所の対応
弊所は、指針の考え方に沿って、カスハラにあたり得る言動があったときは原則として次のように対応します。
1まず弊所の説明や対応に原因がないかを確かめ、必要があれば改めます。
2ご要望にお応えできない理由を、十分にご説明します。
3それでも同じ要求が続く場合は、やり取りを記録したうえで、一定の時間で電話を終える、ご連絡の方法をメールに限るなどの対応をとります。
4改善が見られない場合は、書面で改善をお願いし、なお続くときは辞任することがあります。
5暴行、脅迫など犯罪にあたり得る言動については、直ちに警察に相談します。
辞任を検討する場合とその手順については、「行政書士が辞任するのはどんなときか 弊所が業務を途中で終える場合と手順」で詳しくご説明しています。
まとめ
カスハラかどうかは、要求の内容と伝え方の両方から判断されます。ご不満やご要望をお伝えいただくこと自体は、手続をよりよく進めるために欠かせない、正当な申入れです。
凍結の解除を待つ時間は、誰にとっても不安なものです。だからこそ弊所は、見通しや進め方をご依頼の前にできるだけ具体的にご説明し、ご依頼者さまと同じ方向を向いて手続を進めたいと考えています。気になる点は、ご依頼前のご相談の段階でお気軽にお尋ねください。
参考資料
事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)概要(厚生労働省)
AUTHOR & SUPERVISION
執筆・運営について
リーリエ行政書士事務所
SNSアカウントの凍結解除・乗っ取り復旧を専門とする行政書士事務所です(東京都行政書士会所属)。弊所の業務範囲は、事実関係と証拠の整理、申立書面・通知書面・開示請求書面等の作成までです。交渉の代理、発信者情報開示請求、仮処分・訴訟の手続は行っていません。
| 事務所 | リーリエ行政書士事務所 |
|---|---|
| 取扱分野 | SNSアカウントの凍結・乗っ取りからの復旧、SNSアカウント運用サポート |
| 公開 | 2026年10月28日 |



