アカウント凍結は訴えられるか|請求の型と、相手の反論

Lillie / SNS Account Recovery

凍結が裁判になったとき、
双方は何を主張するのか
そして憲法は、どこで効くのか。

アカウント凍結の争いは、利用者の言い分だけでは動きません。相手方が何を言ってくるかを先に想定できていなければ、書面は空を切ります。ここでは請求の型ごとに攻防の構造を分解し、そのうえで「憲法上の論点はあるのか」という問いに、実務で使える形で答えます。

RELATED ── 前稿「アカウントを一方的に凍結されたとき|対応の5段階と裁判例」の続編にあたります。

SUMMARY

先に、三つの結論

憲法上の論点は「ある」。ただし、期待される効き方とは違います。

01 ── 主戦場は憲法ではなく、約款規制と信義則
凍結をめぐる訴訟の勝敗は、ほぼ民法548条の2第2項(定型約款の不当条項)、消費者契約法8条・10条、そして裁量権行使が信義則・権利濫用にあたるかで決まります。憲法を正面から掲げる主張は、それ自体では請求を基礎づけません。
02 ── 憲法は「重み付け」として入ってくる
憲法の人権規定は私人間に直接適用されません(三菱樹脂事件・最高裁大法廷)。もっとも、条項が「相手方の利益を一方的に害する」かを判断する際の利益衡量に、表現の自由や営業の自由の価値が読み込まれる——これが間接適用です。憲法論は、条文解釈の目盛りを動かす形でしか働きません。
03 ── 同じ憲法21条を、事業者側も引く
ここを見落とすと書面が壊れます。プラットフォームは「どの投稿を載せるかを決めることは自らの編集の自由である」という構成を持っています。米国連邦最高裁は2024年、コンテンツ・モデレーションを表現活動として扱う枠組みを示しました。憲法論は一方通行ではありません。

CLAIMS

請求の型で、争点が変わる

「凍結は不当だ」という感覚を、法的にはどの箱に入れるか。箱が違えば、相手の反論も違ってきます。

型A|利用契約上の地位確認・サービス提供請求

請求の実質:アカウントを使える状態に戻せ

利用契約が存続していることの確認と、契約に基づく役務提供の履行を求める型です。利用者がいちばん望む結果ですが、もっとも通りにくい。事業者側は「契約は解除済み」「そもそも継続提供義務を負っていない」で応じます。

争点は契約の性質論に集中します。ここが崩れると型B・型Cも土台を失うため、実際には並行して立てます。

型B|損害賠償(債務不履行・不法行為)

民法415条/709条

アカウントは戻らなくてよいから金銭で、という型。実務上もっとも現実的で、免責条項が無効とされる射程もここに直撃します。争点は免責条項の有効性・裁量権濫用・損害の立証の三つ。

型Aが事実上難しい案件でも、型Bは残ります。方針転換の判断は、この見極めです。

型C|条項そのものの差止め(適格消費者団体)

消費者契約法12条3項

個人の請求ではなく、適格消費者団体が条項の使用差止めを求める型。自分のアカウントは戻りませんが、条項の書き換えを迫れます。前稿で扱った確定判決はこの型です。

利用者にできるのは、団体への情報提供という迂回路です。忘れられがちですが、費用ゼロで効く経路です。

SUBJECT MATTER

訴訟物は、何か

「凍結が不当だ」という訴えを、裁判所が審理する対象として特定したものが訴訟物です。判例・実務は旧訴訟物理論を採り、実体法上の請求権ごとに訴訟物を捉えます。したがって、同じ凍結という事実から出発しても、構成を変えれば訴訟物は別個になります。

型A-1|確認の訴え

利用契約上の地位の確認

訴訟物原告と被告との間の本件利用契約に基づく、利用者としての契約上の地位の存在
請求の趣旨(例)原告が、被告との間の別紙アカウント目録記載のアカウントに係る利用契約に基づき、利用者たる地位を有することを確認する。

過去の措置の違法性ではなく、現在の権利関係の存否を確認の対象とします。留意点は確認の利益です。給付の訴え(型A-2)が可能であれば、確認の訴えは補充的とされ、確認の利益を欠くと判断される余地があります。実務上は給付を主位に置き、地位確認は併合して立てる形が自然です。

型A-2|給付の訴え

役務提供請求権(措置の解除を求める作為請求)

訴訟物本件利用契約に基づく役務提供請求権
請求の趣旨(例)被告は、別紙アカウント目録記載のアカウントについて、令和○年○月○日付けでした利用停止措置を解除せよ。

被告に一定の作為を求める給付の訴えです。前稿で述べたとおり、この型を仮の段階で実現しようとするのが仮処分であり、その認容例は公表資料の範囲で確認できていません。本案でも、外国法人に対する作為判決の実効性という問題が残ります。

型B-1|給付の訴え

債務不履行に基づく損害賠償請求権

訴訟物本件利用契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条1項)
請求の趣旨(例)被告は、原告に対し、金○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年○分の割合による金員を支払え。

役務提供義務または付随義務(理由の告知・弁明の機会の付与)の不履行を捉える構成です。遅延損害金の起算点は、期限の定めのない債務として履行の請求を受けた時(民法412条3項)。段階2の通知書面が、ここで起算点の証拠になります。

型B-2|給付の訴え

不法行為に基づく損害賠償請求権

訴訟物不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)

型B-1とは別個の訴訟物です。両者は選択的に併合して主張します。違いは実務上決定的です。

  • 遅延損害金の起算点──不法行為構成では損害発生時、すなわち凍結の日から発生します。争いが長引くほど差が開きます。
  • 消滅時効──不法行為は、損害および加害者を知った時から3年(民法724条1号)。凍結日を知った時点から進行するため、相談時にはまず経過期間を確認します。債務不履行は権利行使できることを知った時から5年(同法166条1項1号)で、より長い。

「損害賠償なら時効は長い」と思い込むと、不法行為構成だけが先に落ちます。相談の初回に確認すべき事項です。

型C|差止めの訴え

消費者契約法に基づく差止請求権

訴訟物消費者契約法12条3項に基づく、不当条項を含む契約の申込み・承諾の意思表示の差止請求権

原告は適格消費者団体であり、凍結された利用者は当事者ではありません。訴訟物が個人の請求権と全く異なるため、勝訴してもアカウントは戻りません。戻るのは条項のほうです。

型D|民事保全

仮処分では「被保全権利」と呼ぶ

被保全権利本案の訴訟物に対応する権利(利用契約上の地位/役務提供請求権)

保全手続では訴訟物ではなく被保全権利と保全の必要性が審理対象になります。アカウントを仮に使える状態に戻す申立ては、仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)です。満足的仮処分にあたるため、必要性の疎明水準が高く設定されます。

型E|給付の訴え

保有個人データの開示請求権

訴訟物個人情報の保護に関する法律33条1項に基づく保有個人データの開示請求権
請求の趣旨(例)被告は、原告に対し、被告が保有する原告に係る保有個人データを開示せよ。

凍結の当否とは別個の、独立した請求権です。訴えの提起前に本人からの請求を経ることが必要とされている点(同法39条)に注意します。段階3で開示請求書面を出しておくことは、この手続的要件を満たす作業でもあります。

法定利率について。遅延損害金の率は民法404条により3年ごとに変動します。請求の趣旨を起案する時点の利率を必ず確認してください。過去の書式をそのまま流用すると誤ります。

当事者は誰か

被告を誤ると、内容の当否に入る前に終わります。図で整理します。

図1 ── 型A・型Bの当事者関係
原告
利用者

凍結されたアカウントの名義人。個人または法人。事業用アカウントの場合、名義が個人か法人かで消費者性の判断が変わります。

行政書士 ── 書面の作成、事実関係と証拠の整理
弁護士 ── 交渉の代理、保全・訴訟の追行
被告
運営会社

利用規約上、契約の相手方とされている法人。多くの場合は外国法人です。日本に関連会社があっても、その会社が利用契約の当事者であるとは限りません。

規約の「契約主体」条項と、その版数を確認して特定します。
SUBJECT MATTER ── 訴訟物
利用契約上の地位(型A-1)/役務提供請求権(型A-2)/債務不履行に基づく損害賠償請求権(型B-1)/不法行為に基づく損害賠償請求権(型B-2)。B-1とB-2は別個の訴訟物として併合します。
訴訟外の関係者 ── 当事者ではないが、事実と証拠に影響する
→ 運営会社
通報した第三者

措置の端緒。誰が何を通報したかは通常開示されず、開示請求の対象にもなりにくい領域です。

→ アカウント
乗っ取り・なりすまし犯人

凍結の原因が第三者の不正アクセスである場合、別途の責任主体になります。運営会社への請求とは訴訟物が異なります。

← 利用者
取引先・顧客・広告主

損害が現実化する場所。逸失利益の立証は、この線上の記録から組み立てます。

→ 運営会社
総務省

情報流通プラットフォーム対処法に基づく監督。個別の解除を命じる権限はありません。

→ 運営会社
個人情報保護委員会

保有個人データの取扱いに関する監督。開示請求が拒否された場合の申出先です。

← 利用者
消費生活センター

相談記録がネットワークシステムに残ること自体に意味があります。条項の運用実態を示す資料として機能した先例があります。

読み方。中央の実線が訴訟の対象となる法律関係です。周囲の破線はいずれも訴訟外にあり、判決の効力は及びません。ただし右側の行政機関と左下の相談記録は、中央の主張を支える証拠と外圧として働きます。前稿の段階3が、この周辺部を固める作業にあたります。

図2 ── 型Cは、当事者が入れ替わる
原告
適格消費者団体

内閣総理大臣の認定を受けた団体。個別の被害者に代わって条項の使用差止めを求めます。

被告
運営会社

不当条項を用いて契約を締結している事業者。

訴訟外
凍結された利用者

この訴訟の当事者ではありません。できるのは、条項と運用実態についての情報提供です。判決が出ても自分のアカウントは戻りませんが、条項そのものが使えなくなり、以後の交渉環境が変わります。費用を負担せずに効く、数少ない経路です。

被告の特定について。凍結の通知メールの送信元や日本語サポートの窓口が日本法人であっても、利用契約の相手方はそれとは別の外国法人であることが通例です。段階2の通知書面で名宛人を規約上の契約主体に合わせておくのは、将来の被告特定をそこで確定させておくためでもあります。適用される規約の版数(措置日時点で有効だった版)とあわせて、書面の作成時に必ず確認します。

CLASH

論点ごとの攻防

左が利用者側、右が事業者側。「勝負どころ」は、その論点で実際に決着がつく場所です。書面を書く前に、右側を先に読むことをおすすめします。

利用者側の主張
事業者側の反論
01契約の性質と、役務提供義務の有無
USER

継続的な役務提供契約であり、事業者は契約が存続する限りサービスを提供する債務を負う。

無償に見えても、利用者は広告閲覧と個人データの提供という対価を負担している。有料プラン加入者、収益分配プログラム参加者、広告出稿者であれば、有償双務性は明白。

PLATFORM

無償で提供する便宜であって、特定の利用者に対する継続提供義務は負わない。規約上、アカウントは利用許諾にすぎず利用者の財産ではない。

規約に基づき解除された以上、契約関係は終了しており、確認の利益もない。

CRUX ──有償性の立証が効きます。課金履歴、収益分配の入金記録、広告出稿の請求書。無償アカウントでも、規約上のプレミアム機能や商取引機能の利用実績が有償性を補強します。ここは段階0の記録がそのまま武器になる箇所です。
02約款の不当条項規制
USER

「当社が判断した場合」に無条件で停止でき、損害も賠償しないという条項は、相手方の権利を一方的に制限するもので、信義則に反し利益を一方的に害する(民法548条の2第2項)。

消費者契約であれば、全部免責条項は消費者契約法8条1項により無効。裁量条項自体も同法10条の射程に入る。

PLATFORM

プラットフォームの健全性維持には迅速な措置が不可欠であり、広い裁量は取引上の社会通念に照らして合理的。

異議申立ての窓口を設けている以上、一方的に害するとはいえない。

CRUX ──ここがいちばん重要です。民法548条の2第2項は定型約款一般の規律であり、相手方が消費者かどうかを問いません。事業用アカウントで消費者契約法の保護から外れる案件でも、この条文は生きています。事業性が高いほど消費者法が使えなくなる、という一般論に対する数少ない例外の入口です。
03「消費者」にあたるか
USER

個人が開設した個人名義のアカウントであり、収益化は副次的。契約締結の目的は個人的な発信であって事業のためではない。

PLATFORM

プロフィールに屋号・事業内容・問い合わせ先を掲げ、商品告知に用いていた以上、事業のために契約した者であり消費者にあたらない。

CRUX ──消費者性は、契約締結時の目的で判断されます。凍結によって大きな損害が出るアカウントほど事業性が濃く、消費者保護の枠から外れやすい——という構造的な歪みがここにあります。だからこそ論点02の「消費者でなくても使える条文」を主軸に置く設計になります。
04裁量権の行使が濫用にあたるか
USER

条項が有効だとしても、その行使には限界がある。違反事実が存在しない、または軽微であるのに永久措置を選択したことは、裁量の逸脱・濫用であり信義則違反(民法1条2項・3項)。

同種の投稿が放置されている一方で自分だけが措置を受けたことは、恣意的運用を示す。

PLATFORM

違反は複合的であり、過去の警告歴を含めて総合判断した。個別の運用の当否は経営判断であって司法審査になじまない。

他アカウントの取扱いは、対象の投稿内容も履歴も異なり比較にならない。

CRUX ──「規約違反がなかった」という消極的事実の立証は困難です。実務では逆向きに——事業者が主張する違反事実が特定されていないことを突き、特定を求める方向に組み立てます。理由が開示されないという事実そのものを、論点05へ接続させます。
05理由を開示しないことの評価
USER

理由が示されなければ反論も是正もできず、異議申立ての機会は形骸化する。手続保障を欠いた措置は、契約上の付随義務(説明・通知義務)違反にあたる。

保有個人データの開示請求(個人情報保護法33条)にも応じないのであれば、その拒否自体が不透明な運用の徴表となる。

PLATFORM

判断基準を詳細に開示すれば、スパム業者・なりすまし・自動化ツール運営者に回避手口を与え、検知体制の実効性が失われる。

開示は個人情報保護法33条2項の除外事由(業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれ)に該当する。

CRUX ──事業者側の反論には正当な核があり、正面から潰せません。有効なのは要求水準の切り分けです。検知アルゴリズムの開示は求めない。どの条項の、いつの、どの行為かの特定だけを求める——この立て方なら「手口を教えることになる」という反論は届きません。ドイツ連邦通常裁判所は2021年、削除の事後通知とアカウント停止の事前通知、理由の告知、反論と再判断の機会を約款が定めていないことを理由に、Facebookの当該条項を無効と判断しています。
06自動判定・AIによる措置
USER

人間の関与なく機械的に処理された措置は、個別事情の考慮を欠いており、裁量の適正な行使といえない。

情報流通プラットフォーム対処法は、大規模事業者に対しAIによる自動判定の件数を含む運用状況の公表を義務づけている。自動判定の存在は事業者自身が前提としている。

PLATFORM

膨大な情報量に対処するには自動処理が不可欠であり、誤検知の可能性は異議申立て制度で担保している。

CRUX ──「自動処理だから違法」とはいえません。効くのは組み合わせです。自動で措置し、理由を示さず、異議申立ても定型文で処理した——この連鎖を一体として示せたとき、はじめて「個別事情の考慮を欠いた」という評価に届きます。2026年7月24日、総務省が公表義務違反を理由に5社へ勧告を行った事実は、この文脈で援用できます。
07損害の有無と算定
USER

アカウント経由の売上・予約・受注の逸失利益。復旧に要した費用。取引先への信用毀損。凍結の事実自体による社会的評価の低下。

過去実績の平均と凍結後の実績の差額で、相当因果関係のある損害を算定できる。

PLATFORM

売上減少はアカウント凍結以外の要因(季節変動、競合、施策変更)によっても生じ、因果関係が立たない。

フォロワー数に財産的価値はなく、規約上も譲渡・換価できない。無償利用者に営業上の期待利益は認められない。

CRUX ──この論点は凍結前の記録の質だけで決まります。アナリティクスのエクスポート、流入経路別の売上、予約管理データ。凍結後に集めようとしても、そのデータはアカウントの中にあって取り出せません。相談を受けた時点で最初に確認すべきはここです。
08準拠法・管轄・執行
USER

消費者契約であれば、常居所地法である日本法の強行規定の適用を求める意思を表示できる(法の適用に関する通則法11条)。

消費者契約に関する訴えは、消費者の住所地の裁判所に提起できる(民事訴訟法3条の4)。管轄合意も同法3条の7第5項により制限される。

PLATFORM

規約は外国法を準拠法と定めており、当該利用者は事業のために契約した者で消費者にあたらない。

外国法人への送達には相応の期間を要し、判決を得ても国外財産への執行は容易でない。

CRUX ──ここでも論点03の歪みが再来します。損害が大きいアカウントほど「消費者」から外れ、手続的な保護も薄くなる。準拠法条項の存在自体は争えないため、消費者性を維持できるかが実質的な分岐点になります。

CONSTITUTION

憲法上の論点はあるのか

結論からいえば、あります。ただし「憲法21条違反だから凍結は無効」という道筋は存在しません。どこで、どう効くのかを順に整理します。

前提|憲法は私人間に直接適用されない

最高裁大法廷 昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件)
最高裁は、憲法の自由権的基本権の保障規定は国または公共団体と個人との関係を規律するもので、私人相互の関係を直接規律することを予定していないと述べました。そのうえで、私的支配関係において自由や平等への侵害の態様・程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、民法1条・90条や不法行為に関する諸規定の適切な運用によって調整を図るとしています。いわゆる間接適用説です。

プラットフォームは私企業です。したがって、憲法21条を直接の請求原因とすることはできません。ただし判決が示した後段——一般条項の運用を通じて調整する——が、そのまま実務の入口になります。

用語の注意|これは「検閲」ではない

相談者から「これは検閲だ」という言葉が出ることがあります。気持ちは分かりますが、書面にこの語を使うと信用を落とします。

憲法21条2項の「検閲」は、最高裁が行政権が主体となって、表現物を対象に、発表の禁止を目的として、網羅的一般的に、発表前に内容を審査し、不適当と認めるものの発表を禁止することと定義しています(最高裁大法廷 昭和59年12月12日判決・税関検査事件)。主体が行政権であり、事前抑制であることが要件です。私企業による事後の削除・停止は、定義上ここに含まれません。

なお、電気通信事業法3条は電気通信事業者の取扱中に係る通信の検閲を禁じており、条文上は主体を公権力に限定していません。この点を捉えて援用する余地はありますが、公開型SNSにおける投稿削除やアカウント停止が同条にあたるとした公表例は確認できておらず、主張の柱にはできません。

利用者側が援用しうる憲法上の価値

直接の請求原因ではなく、民法1条2項・548条の2第2項・消費者契約法10条の解釈にあたって考慮されるべき利益として持ち込みます。

21条1項表現の自由
現代において、情報発信の場は少数のプラットフォームに集中している。そこから排除されることは、事実上、公衆に向けて発言する手段を失うことを意味する。この利益の重さは、条項が「一方的に害する」かの判断で考慮されるべきである——という形で使います。
22条1項営業の自由
事業用アカウントの凍結は、営業基盤そのものの喪失にあたる。消費者契約法が使えない事業者利用者にとって、民法548条の2第2項の衡量に持ち込む数少ない価値がこれです。
13条人格権
長年運用したアカウントには、社会的評価と人格的利益が化体している。凍結の事実が公然と表示されることによる評価低下も、この枠で構成できます。
32条裁判を受ける権利
準拠法・管轄条項によって事実上出訴が封じられる状況を、管轄合意の効力を制限的に解する根拠として援用します。民事訴訟法3条の7第5項の趣旨とあわせて主張する形が自然です。
31条の趣旨適正手続
31条は刑事手続の規定であり、私人間に及ぶものではありません。ただし「不利益な措置には、理由の告知と弁明の機会が伴うべきである」という手続的正義の要請は、契約上の付随義務を基礎づける議論として通用します。ドイツ連邦通常裁判所が採ったのは、まさにこの構成です。

事業者側が援用しうる憲法上の価値

見落とすと足元をすくわれます。相手も憲法を持っています。

21条1項編集の自由
どの投稿を掲載し、どう表示するかを決めることは、プラットフォーム自身の表現活動である——という構成。米国連邦最高裁は2024年7月1日のMoody v. NetChoice判決で、第三者の投稿を編集・選別する行為が表現の自由の保護を受けうることを前提に、州法の合憲性判断枠組みを示しました。日本国憲法の解釈がこれに従うわけではありませんが、事業者側が持ち出す論理の型としてはそのまま輸入されます。
22条1項営業の自由・契約自由
誰と契約するかを決める自由は事業者にもある。三菱樹脂事件が使用者の採用の自由を認めた枠組みは、事業者側にとって有利な先例でもあるという点は押さえておく必要があります。
29条財産権
サーバーもサービスも事業者の財産であり、その利用を無条件に他者へ開放する義務はない。

同じ21条が、両側から引かれる

これが、この分野の憲法論がそれ自体では決着をつけられない理由です。

利用者の側から

発信の場から排除されない自由。プラットフォームの公共性・独占性が高いほど、この利益は重くなる。

憲法21条1項
事業者の側から

何を載せるかを決める編集の自由。強制的に掲載させられない自由。規模が大きいほど、担う判断も広い。

どちらの主張も同じ条文から出てきます。したがって裁判所は、憲法解釈で答えを出すのではなく、比較衡量の結果を約款規制の条文に流し込むという処理をします。実務家として書くべきなのは「憲法違反である」ではなく、「憲法21条1項の趣旨に照らして考慮されるべき利益がこれだけ重く、他方で事業者が失うものはこの程度にとどまるから、当該条項は信義則に反して一方的に利益を害する」という形の主張です。

もうひとつの憲法論|国家が規制する側に回るとき

2026年7月24日、総務省は情報流通プラットフォーム対処法28条の公表義務違反を認定し、5社に勧告と報告徴収を行いました。利用者にとっては追い風に見えます。ただし憲法論としては、逆向きの力も働きます。

国家がプラットフォームの情報流通に介入する構造は、それ自体が表現の自由の観点から警戒される対象です。削除を促す方向の規制は過剰削除(オーバーブロッキング)と萎縮効果を生み、結果として凍結される利用者を増やしかねません。同法が透明性確保と手続整備を軸に設計され、個別の削除を命じる建て付けを避けているのは、この緊張を意識した設計といえます。

実務上の含意は明快です。情プラ法は「削除させる法律」ではなく「手続を透明にさせる法律」として援用してください。前者として持ち出すと、その主張は自分の依頼者の首を絞める論理に転化します。

比較法|他国はどこで線を引いたか

  • ドイツ──連邦通常裁判所は2021年7月29日の2件の判決(III ZR 179/20、III ZR 192/20)で、Facebookの削除・アカウント停止に関する約款条項を無効と判断しました。理由は内容の当否ではなく手続です。削除の事後通知、停止の事前通知、理由の告知、反論の機会とそれを踏まえた再判断——これらを約款が定めていないことが、条項無効の決め手とされました。基本権の間接的第三者効力を私法の約款審査に流し込んだ実例であり、日本の民法548条の2第2項の議論にそのまま接続できる射程を持ちます。
  • EU──デジタルサービス法(規則(EU)2022/2065)は、措置を講じた際の理由付き説明、内部異議処理手続、裁判外紛争解決機関へのアクセスを事業者の義務として制度化しました。司法判断ではなく立法で手続を組み込んだアプローチです。
  • 米国──連邦憲法の言論条項は政府にのみ及び、私企業の措置は原則として対象外です。その前提の上で、州がモデレーションを規制しようとした立法が争われたのがMoody v. NetChoice判決でした。利用者を守る方向ではなく、事業者の自由を確認する方向に議論が進んでいる点が、欧州との対比として重要です。

日本は、ドイツ型(司法による約款審査)とEU型(立法による手続義務)の両方の要素を持ちながら、アカウント停止に特化した規律はまだ持っていません。この空白を埋める作業が、いま個別の書面と個別の訴訟で行われている段階だという理解が、実務上いちばん正確です。

DRAFTING

書面に、どう落とすか

以上の整理を、段階2の通知書面に反映させると次のようになります。

憲法の使い方

効かない書き方貴社の措置は憲法21条1項が保障する表現の自由を侵害するものであり、違憲かつ違法である。
効く書き方本件アカウントは当方の事業上の主要な集客経路であり、その利用停止は憲法21条1項および22条1項が保障する利益に重大な制約を及ぼすものです。他方、貴社が本件で失う利益は限定的です。この衡量に照らせば、本件条項は民法548条の2第2項にいう「相手方の利益を一方的に害する」ものと解されます。

理由開示の求め方

断られる書き方凍結の判断基準および検知の仕組みを開示されたい。
断りにくい書き方検知手法の詳細な開示を求めるものではありません。当方が求めるのは、貴社利用規約のいずれの条項に、いつの、いかなる行為が該当すると判断されたのかの特定です。これが示されなければ是正のしようがなく、貴社が設けた異議申立て手続も機能しません。

事業用アカウントで消費者契約法が使えないとき

主軸を移す民法548条の2第2項は定型約款一般の規律であり、相手方が消費者であるか否かを問いません。事業者間の取引においても、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項は、合意しなかったものとみなされます。

SCOPE

誰が、どこまで行えるか

本稿で扱った内容のうち、行政書士が担えるのは書面の作成と事実・証拠の整理までです。

行政書士と弁護士の線引き

行政書士が行えること
  • 異議申立文書の作成
  • 通知書面・内容証明の作成
  • 事実関係と証拠の整理
  • 開示請求書面の作成
  • 再発防止規程の整備
弁護士の業務
  • 相手方との交渉の代理
  • 仮処分の申立てと追行
  • 訴訟の提起と代理
  • 法律事件に関する鑑定

本稿の攻防整理は、訴訟における主張立証の見通しを示すものではなく、書面作成の前提として想定される論点を一般的に整理したものです。当事務所は書類の作成と証拠整理を担い、交渉代理および仮処分・訴訟の手続は行いません。訴訟が相当と判断した案件は、その旨をお伝えします。

出典

公的機関の公表資料に限定しています。

  1. 裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(最高裁大法廷昭和48年12月12日判決/同昭和59年12月12日判決 ほか)
    https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1
  2. 消費者庁「埼玉消費者被害をなくす会と株式会社ディー・エヌ・エーとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について」(令和3年1月6日、第一審判決の概要を別添)
    https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_system_cms203_210106_06.pdf
  3. 政府広報オンライン「消費者団体訴訟制度」
    https://www.gov-online.go.jp/article/201401/entry-9466.html
  4. 総務省 報道資料「情報流通プラットフォーム対処法第28条に定める公表義務の違反に係る勧告等」(令和8年7月24日)
    https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000483.html
  5. 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html
  6. 個人情報保護委員会(保有個人データの開示請求に関する制度)
    https://www.ppc.go.jp/
  7. ドイツ連邦通常裁判所 報道発表 Nr. 149/2021(2021年7月29日判決 III ZR 179/20、III ZR 192/20)
    https://www.bundesgerichtshof.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2021/2021149.html
  8. アメリカ合衆国連邦最高裁判所 Moody v. NetChoice, LLC, 603 U.S. 707 (2024)(2024年7月1日)
    https://www.supremecourt.gov/opinions/23pdf/22-277_d18f.pdf
  9. e-Gov法令検索(日本国憲法、民法1条・415条・548条の2・709条、消費者契約法8条・10条・12条、法の適用に関する通則法11条、民事訴訟法3条の4・3条の7、個人情報の保護に関する法律33条、電気通信事業法3条)
    https://laws.e-gov.go.jp/

本稿は、想定される主張・反論を一般的に整理したものであり、特定の事案における見通しを示すものではありません。実際の帰結は、アカウントの種別、適用される利用規約の版、措置の内容と経緯によって大きく変わります。外国の裁判例および立法の紹介は、日本法の解釈を直接に基礎づけるものではなく、論点の所在を示す趣旨で掲げています。