行政書士の処分を受けそうになった…そうならないために現役行政書士が気をつけたいこと

はじめに
私たちリーリエ行政書士事務所(東京都江東区)には、日々多くの法律相談が寄せられます。
そのなかで最近増えているのが、「依頼した行政書士が処分を受けそうで不安になった」「知人に紹介された行政書士がトラブルを起こしていた」といった、行政書士自身にまつわるトラブルです。
行政書士は、書類作成や許認可手続きを担う国家資格者として、法的知識と誠実な対応が求められます。
しかし、ほんの小さな油断や誤解、あるいは不当な嫌疑によって、業務停止や資格取消などの厳しい処分を受けることもあります。
この記事は、現役の行政書士の先生方を対象に、行政書士の懲戒処分の基礎知識から、実際によくあるトラブル事例、そして処分を避けるためにできる対策、さらに万が一、処分を受けそうになった際の具体的な対処法について、実務経験に基づいてわかりやすく解説します。
行政書士処分の基本知識と背景
行政書士とは、官公署に提出する申請書類の作成や、契約書・内容証明などの法的文書を作成する専門家です。資格を取得するには国家試験に合格し、行政書士会に登録する必要があります。
しかし、資格を持っているだけでは十分とは言えません。行政書士には、法令遵守と依頼者との誠実な対応が強く求められます。これに反する行為があった場合、「行政書士法」に基づいて次のような処分を受ける可能性があります。
- 戒告(口頭または書面による注意)
- 業務停止(一定期間、業務ができない)
- 資格剥奪(行政書士登録の抹消)
- 単位会処分と行政処分の違い
行政書士に対する処分は、大きく分けて「単位会処分」と「行政処分(都道府県知事による処分)」の2種類があります。この違いを理解しておくことは、万が一の事態に備える上で非常に重要です。
単位会処分とは、行政書士が所属する各都道府県の行政書士会(単位会)が、会則や倫理規定に違反した会員に対して行う処分です。これは、行政書士法に基づく懲戒処分とは異なり、主に「注意」や「戒告」といった比較的軽微なものが多く、業務停止や資格剥奪といった直接的な業務制限を伴うことは稀です。
例えば、会費の滞納や、会員としての品位を損なう行為、会則に定める義務違反などが対象となります。単位会からの処分は、会内での地位や名誉に関わるものですが、これにより直ちに業務ができなくなるわけではありません。しかし、繰り返し処分を受けたり、重大な会則違反があったりする場合には、行政処分へと繋がる可能性もあります。
一方、行政処分は、行政書士法に基づいて都道府県知事が行う懲戒処分です。これは、行政書士法に定める業務上の義務違反や、行政書士としての品位を損なうような行為など、より重大な違反が対象となります。行政処分には、戒告、業務停止、資格剥奪の3段階があり、特に業務停止や資格剥奪は、行政書士としての活動に直接的な影響を与える、非常に重い処分です。
例えば、名義貸し、虚偽書類の作成、職務上請求書の不正使用、守秘義務違反などが該当します。行政処分は、行政書士としての社会的信用を大きく失墜させ、今後の業務遂行に深刻な影響を及ぼします。
したがって、単位会からの注意や指導があった段階で、真摯に受け止め、改善することが肝要です。
それがエスカレートして行政処分に至るような事態は、なんとしても避けなければなりません。
よくある違反行為
行政書士の信用は「言動と行動の一貫性」で保たれています。うっかりした行為が信用失墜につながる可能性があるため、慎重な業務遂行が求められます。
よくある違反行為としては次のようなものがあります。
- 報酬や費用の説明を曖昧にしたまま請求
- 他人の名義で申請するなどの代理権の濫用
- 無資格者との共同業務、名義貸し
- 職務上請求書の不適切な使用
- 法令違反の広告や過剰な営業
よくあるトラブルと処分リスクの事例
ここでは、実際に起こりうるトラブルと、それに伴う処分リスクの事例を具体的に見ていきましょう。
事例1:知人に頼まれた書類作成がトラブルに
行政書士Aさんは、知人に頼まれて遺産分割協議書を作成しました。しかし、他の相続人の同意が得られていないまま作成を進めたことで、のちに苦情が入り、業務停止2か月の処分を受ける結果に。
→依頼の背景確認を怠ると、本人に悪意がなくても重大な結果になります。安易な気持ちで引き受けた案件でも、専門家としての責任は免れません。
事例2:報酬の不明確な請求がクレームに
Bさんは「相談無料」とうたっていたにもかかわらず、30分の面談後に5万円を請求。依頼者が困惑して行政書士会に通報し、指導処分となりました。
→料金体系は契約前に明確にし、見積書や契約書で書面化しましょう。口頭での説明だけでは、後々のトラブルの元になります。
事例3:名義貸しで資格を失う
Cさんは、友人に頼まれて名前を貸し、何度か書類に署名押印してしまいました。行政書士会の調査により事実が発覚し、懲戒処分と資格剥奪となりました。
→名義貸しは一度でもNGです。頼まれても断る勇気が必要です。自身の資格だけでなく、行政書士業界全体の信用を損ねる行為であることを認識しましょう。
事例4:職務上請求の乱用で厳重注意
住民票などの取得に使う「職務上請求書」を、私的な調査に使ったとして、厳重注意と指導処分を受けたケースもあります。
→行政書士に与えられた権限は慎重に使いましょう。職務上請求書の適正な使用は、行政書士の倫理の基本です。
事例5:法令違反の広告や過剰な営業
「即日許可取得!」などの誇大広告や、無理な営業行為も問題視されることがあります。繰り返せば業務停止の対象になることも。
→広告表示には景品表示法や行政書士法上の制限があります。過度な表現は避け、事実に基づいた誠実な広告を心がけましょう。
事例6:業務上の秘密保持義務違反
依頼者の個人情報や企業の機密情報を、不注意で漏洩してしまったケース。情報セキュリティ対策の不備や、不用意な発言が原因で、信用失墜行為として処分対象になる可能性があります。
→情報管理の徹底は不可欠です。物理的な管理だけでなく、デジタルデータの管理や、職員への教育も重要です。
事例7:不適切な会計処理や税務申告
業務報酬の申告漏れや、経費の不適切な計上など、会計処理や税務申告において不正があった場合も、行政書士としての信用を失墜させる行為として処分対象となり得ます。
→税務は専門家に相談し、適正な会計処理を心がけましょう。
専門家への相談と自己防衛のポイント
行政書士として活動する中で、「これは大丈夫だろう」と思って行ったことが、思わぬトラブルに発展することは少なくありません。だからこそ、自身で防衛するための工夫が必要です。
自己防衛策の基本
メールやLINEでやりとりを記録に残す:
口頭での合意は、後々「言った言わない」のトラブルになりがちです。重要な合意事項は、書面やメール、LINEなどのメッセージで記録に残すようにしましょう。
必ず契約書・見積書を交付する:
依頼を受ける前には、業務内容、報酬額、費用、納期などを明記した契約書や見積書を交付し、依頼者の同意を得るようにしましょう。
曖昧な依頼内容は書面で再確認する:
依頼内容が不明確なまま業務を進めると、後で依頼者との認識の齟齬が生じることがあります。少しでも曖昧だと感じたら、書面で詳細を確認し、合意形成を図りましょう。
経験のない案件、判断に迷う案件では、すぐに先輩や第三者に相談する:
専門家だからといって全てを知っているわけではありません。自身の専門外の分野や、判断に迷う複雑な案件に直面した場合は、躊躇せず、経験豊富な先輩行政書士や、他の法律専門家(弁護士、税理士など)に相談しましょう。
加えて、感情に流されず、事実をもとに判断する姿勢が、プロフェッショナルとしての信頼を築きます。冷静な判断と客観的な視点を持つことが重要です。
万が一、処分を受けそうになった時の対処法
誠実に業務を遂行していても、誤解や不当な嫌疑により、行政書士会からの呼び出しや処分に関する照会を受ける可能性はゼロではありません。そのような事態に直面した際には、冷静かつ迅速に対応することが重要です。
綱紀委員会からの呼び出しがあったら、その時点で弁護士に相談を
行政書士会から「綱紀委員会」からの呼び出しがあった場合、それは懲戒処分の可能性が浮上していることを意味します。この時点で、必ず弁護士に相談してください。行政書士法に詳しい弁護士であれば、状況を正確に把握し、適切なアドバイスを受けることができます。弁護士は、あなたの権利を守り、不当な処分を避けるための最善の戦略を練ってくれます。自己判断で対応すると、不利な状況を招く可能性があります。
何が嫌疑なのかを明確にする
綱紀委員会からの呼び出しがあった際には、まず**「何が嫌疑なのか」を明確に確認**してください。具体的な違反行為の内容、日時、場所、関係者など、できる限り詳細な情報を把握することが重要です。嫌疑が曖昧なままでは、適切な反論や証拠の提示ができません。書面で嫌疑の内容を提示してもらうように求め、不明な点は質問して明確にしましょう。
言い分は必ず主張する
嫌疑の内容が判明したら、それに対するあなたの言い分は必ず主張してください。たとえ、嫌疑が事実であったとしても、その背景や経緯、自身の認識などを説明することで、情状酌量の余地が生まれる可能性があります。また、嫌疑が事実無根である場合は、それを裏付ける証拠(書類、メール、証言など)を収集し、積極的に提示することが重要です。沈黙は、嫌疑を認めたと解釈される可能性もあります。
明らかにおかしい事実認定は、訴訟で争うことも検討
綱紀委員会や行政書士会、あるいは都道府県知事による事実認定や処分内容が、客観的に見て明らかにおかしい、不当であると感じた場合は、行政訴訟で争うことも視野に入れるべきです。もちろん、訴訟は時間も費用もかかりますが、自身の名誉と資格を守るためには、最後の手段として検討する価値があります。この判断も、弁護士と十分に協議した上で行うべきです。行政処分に対する不服申立てや、取消訴訟など、専門的な知識が不可欠となるため、必ず弁護士のサポートを得てください。
まとめと次のアクション
行政書士は国家資格を持つ専門職ですが、その地位は「社会的信用」によって支えられています。そして、その信用はほんの少しの油断や誤解で揺らぐことがあります。
トラブルを避けるための3つのポイント
- 依頼の背景を丁寧に確認する:安易に引き受けず、トラブルの種がないかを事前に見極めましょう。
- 報酬や契約内容はすべて書面で残す:口頭での約束はトラブルの元です。明確な書面を残すことで、双方の認識の齟齬を防ぎます。
- 迷ったらすぐ専門家に相談する:自身の判断に自信がない場合は、先輩や他の専門家を頼りましょう。
これらを徹底することで、多くのトラブルは未然に防げます。
私たちリーリエ行政書士事務所(https://lillie.jp/)では、同業の行政書士の先生方からのご相談にも対応しております。自分一人で抱え込まず、「ちょっと確認したい」「セカンドオピニオンが欲しい」と思ったら、ぜひお気軽にご連絡ください。綱紀委員会からの呼び出しや、懲戒処分に関するお悩みについても、初期段階でのご相談が非常に重要です。
24時間受付・年中無休で、LINEでの無料相談も可能です。専門家同士だからこそできるアドバイスで、あなたの業務をサポートいたします。あなたの信頼と未来を守るために、私たちがお力になります。